スタッズのびっしり埋め込まれた、真っ黒な10センチのハイヒールシューズ。
これを履いてどこに行ったかしら?あのときのデートでは、これに黒のサテンのドレスと革のコートを合わせたっけ。同じく鋲の打ち込まれた小さなバッグとコーディネートするのも好きだったな。その削れた赤い靴底に必死に舌を這わせる無様な男を眺めながら、わたしはその靴と出掛けた甘い日々を思い出す。
大好きだったけど、お別れするときが来るなんて。
美しいハイヒールの命は、儚い。そのレザーソールは硬いアスファルトに削られ、ほんの少しの溝も細いヒールには容易く傷を残し、わたしの汗を吸った革は一度馴染んだ後には形を崩すばかり。世界はこの華奢なハイヒールには過酷すぎる。
大好きなハイヒールとのお別れのセレモニー、そんな素晴らしい瞬間に立ち会えて、おまえ、幸せね!この靴が靴としての天寿を全うできるように、最期のお仕事の手伝いをおまえにさせてあげる。
その大好きだったハイヒールに注いだソレ、一滴も零さずに飲みなさい。私の足のエキスと、足に馴染んだ革の味、すべてが抽出されるようにたっぷり注いであげる。おまえがきちんと全部飲み干したら、その靴だって報われるんじゃない?
注がれた黄金色の液体を必死に飲み下すおまえと、おまえが持つもうわたしにとってゴミ同然の価値になってしまったハイヒールを眺めながら、次はどんな靴を買おうか考える。どんな靴で、どこへ行こうか。素敵な靴は、足の数だけでは少なすぎる。そうして私のお供に疲れた靴たちは、またこうやって供養してやればいいんだから・・・
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今回の共通テーマは
会員様からいただいた【ドミナ の理想のセッション 】。
「お話は変わりますが、
小生も共通テーマ、毎回楽しみしております。
これが、共通テーマに相応しいかどうか分かりませんが、
ミストレスの理想のセッションに興味があります。
相手があるので、一概な回答はないと思いますが、
肉体面を重視される方、精神面を重視される方、
特定な性癖や状況を楽しまれる方、色々だと思います。」
さて、ドミナらのお返事は?
↓ドミナの皆様、どうぞ!
わたしの場合、プレイの好みはその時々によって変わります。
相手にもよるし、シチュエーションにもよるし、その時のマイブームだってあるし。肉体を責めるのも好きだし、精神を責めるのも好きだし。「特定の何か」を求めてSMをやっているのではなく、「おもしろいと思える何か」を求めてSMをやっているのだと思います。
だから、「好きなプレイは何ですか?」と聞かれると返答に詰まる。そりゃあこんなに長く続けているくらいだもん、何でもおもしろいし、何でも好き。強いて言うなら「緊縛らしい緊縛」にあまり興味がないくらい(これはわたしと話したことがある人だったら、どういうことなのかわかるよね)。
そんなわけで、わたしの【理想のセッション】には特定のプレイが必要なわけではありません。
では、わたしの理想のセッションには何が必要なのか・・・それは「相手がかわいそうだと、わたしが感じること」なのではないかと思います。
どういうわけか昔から、かわいそうな人を見るとワクワクします。理不尽な目に遭っていたり、恐怖に震えていたり、おなじ人間とは思えないくらいに辱められていたり、大切なものを取り上げられたり、わたしのことが好き過ぎて悲しくなっていたり・・・。
そんなかわいそうな人を眺めながら、わたしは鷹揚に笑っている。そんなセッションがわたしの理想とするところなのではないかと思います。なんだかぼんやりした回答になってしまいましたが、これからもそんなセッションを重ねていけたらいいな。うふ。
「そう、そのまま顔上げるんじゃないよ」
不愉快にまとわりつく熱波から隔離された空調の効いた部屋、冷えた石の床の上に小さく身体を丸めたおまえの頭の上からわたしはそう声をかける。
「わたしがいいって言うまで動くんじゃないよ、もしも少しでも動いたら・・・」
おまえの身体から伸びる電極コードを引っ張ると、小さく震えたように見えた。・・・そう見えただけだよね?いまさっき動くなって言ったばかりなのに、動くはずないわよね?
「少しでも動いたら、わかるよね?電気。」
そうして丸くなったおまえの背中にハイヒールの踵をどっしりと乗せると、わたしは読みかけの本を開く。いま居るこのおかしな世界から、儚くロマンチックな世界への逃避行。いつまでって?わたしの気が済むまでよ。
だいたい何をされても喜んでしまうおまえへの、これは最も効果的なお仕置き。終わりも見えない、いつもの「おゆるしください」も通用しない、最も効果的な責め。いつまで保つかしらね?でも今日はおまえから止めることはできないのよ。プレイを始めるのも終わらせるのもすべてわたしの意志だってことを、今日はおまえにもう一度わからせてあげるわ・・・。
地味に嫌なことって好きです。
痛みや苦しさはいつか終わるのを知っている。頭を真っ白にして耐えていれば、いつか終わりが来る。でも、自分で噛み締めなくてはならないこんな地味なプレイの中では、いつもと違う惨めさや屈辱が生まれるような気がします。「放置プレイ」とも少し違う、ただ待つことしかできない苦しみ。
最後にお知らせ。
10月11日(木)
10月12日(金)
通常出勤の曜日ですが、お休みをいただきます。例によって香港です。良い子で帰りを待っててね!
最近頑張ってセルフィーを始めたのですが、いかんせんセンスもなければそもそも撮る習慣もないから忘れちゃう。アナログにんげん七です、こんにちは。今度櫻子ちゃんにでも自撮りを教わろうと思います。
先日ようやく完結した妄想小説「その棘は消えない」(第一話、第二話、第三話)、あれ、ベースは実話なのですが。長いことSMが好きで触れていると、色々なことがあるよねえ(しみじみ)。・・・なんて話をしていたら、ある」マゾがポツリ「もっと七さんのやってきたSMの話が読みたいなあ」。
いつの頃からか、セッションの内容を詳しくここに記すことがあまり好きではなくなりました。あのセッションはわたし達ふたりのものだし、それに文章にしてしまうと嘘になってしまうような気がして。あの熱を、空気感を文章にしたくなかったというか、できなかったというか。
でも改めてこの話を書いてみると、当時のことを思い出して自分でもワクワクしたし、今だったらもっとこうするだろうなっていう妄想も広がって楽しかった。喉元過ぎているせいかもしれないし、あくまで脚色された文章だということが良かったのかもしれませんね。
そんなわけで、印象深い過去のセッションやSMやマゾについて、書いてみようと思います。当時ブログへの掲載許可を貰っている、もしくは今も会っているマゾには確認の上、あくまで脚色有りのわたしの「妄想小説」としてね。【Reminiscence of sessions】シリーズ、そんなに筆が早い方ではないのでボチボチになりますが、お楽しみに!
[ここから私信]
ドロドロのKへ
8月にそちらに行く機会があるかも、詳しくはオフィスにメールしてみてね。
最近、新しくシオラに入会した海外の方とセッションする機会が続きまして。
はじめてセッションする際には「なぜSMに興味を持ったの?」というお話をすることも多いのですが、何人かのマゾの口から「ナミオハルカワのアートを見て・・・」という返答がありました。
(これはわたしが資料用に持ち歩いている春川ナミオファイル)
春川ナミオの描く世界観がだいすきです。
自分の愉しみと快適さだけのために、男を使う。悠然と。ふてぶてしく。豊満な肉体と、余裕の表情。わたしがSMを好きな理由の、最もプリミティヴな部分を煮詰めたようなこの世界観。
SMに触れた経験もバックグラウンドも違う人たちにもしっかりと伝わるんだなあと感慨深かったです。
ああ、顔面騎乗したいなあ。